国立駅と景観権・訴訟始まる

毎日新聞8/8地域覧より引用・加筆
photo: サエキアキラ

緑豊かな文教都市として知られる国立市のJR国立駅前、大学通りなど 市内7地区の建設規制が不当に緩和されたため、高層マンションが乱立し 「景観権」が侵害されたとして、同市の住民らが7日、都と市を相手取り、 総額約1210万円の損害賠償を求めた訴訟を東京地裁八王子支部に起こした。

眺望権など、財産権的な側面から権利を認めた判例は過去存在するが、 憲法13条(個人の尊重)や25条(生存権)に基づいた人格権的な景観権を主張し、 街作りのあり方を問う訴訟は全国でも初めてとのこと。

訴えたのは、同市の市民団体「文教都市のまちづくりを進める市民の会」 代表の村上陽一郎さん(67)他242人。都は市の意向を受け、1989年10月、 大学通り商店街を近隣商業地域から商業地域に変更するなど、 用途地域の見直しを行った。この結果、容積率は300%から600%になり、 高度制限もなくなるなど「異常な規制緩和」が行われたと主張。 見直しは緩和を求めた地元商工会の要望を超えているほか、都が自ら定めた 指定基準にも反する、と訴えている。

同地区には高さ30mを超す八つの高層マンション建設計画が持ち上がり、 すでに五つが着工され、周辺の景観が破壊されつつある。大学通り商店街以外にも、 ほぼ同様な見直しが行われた、とのこと。さらに、今年5月には、用途用地を 見直す機会があったのに、都と市は市民の要望を受け入れず、手を加えなかった。 (この件については6/20の市報くにたちNo.628を参照)

大学通りは、JR国立駅から南のさくら通りと交差するまでの約1.3キロ。 大正末期にドイツのゲッチンゲン市の町並みをイメージしたとされる市のシンボル的な存在。 両側に約9mの緑地帯があり、サクラ、イチョウ、アカマツなどが生い茂る 並木道になっており、82年には都の「新東京百景」にも選ばれた。 国立市については、こちらを参照。

原告側は景観権について、良好な景観を享受する権利は、 健康で文化的な生活を営む上で欠かすことのできないもので、法的に保護されるべき 具体的な人格的権利と主張。見た目だけでなく、その土地がもつ生態的特性を 総合的に評価するべきだとして、大学通りに関しては「並木の高さを超えない町並み」 など九つの要素を提示。代理人の梶山正三弁護士は「大学通りの景観は、 市民の努力で維持されてきた。裁判を一つの手段として、 景観を守る市民運動の輪を広げてもらいたい」とはなしている、とのこと。 同会は11月末までに、600人を目標に新たな原告、支援者を募り、2次提訴する予定。

岸野茂・国立市都市計画課長の話 景観権の定義もわからないし、 訴状も見ていないのでコメントできない。

(September 6, 1996)
関連レポート:かわりゆく国立駅(June 23,1996)

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