1995天下市回想記

words: 武澤 一隆 (有限会社 国立情報科学研究所)

1.「インターネット体験コーナー」までの道のり

11月3.4.5日、国立(くにたち)の大学通りで市民祭と一橋際とともに天下市が開かれた。 毎年天気が良ければ50万以上の人が訪れる国立最大のイベントである。幸い今年は3日間天 気が良く、通りは混雑でうまく通り抜けられないほどの盛況となった。私は国立育ちの国立 の住民で小さい頃には「天下市」でおもちゃやお菓子、時には自転車なども買ってもらうこ とができるので、毎年楽しみに待っていたものだ。その「天下市」に自らが出展するように なるとはその一月前まで本気にしてはいなかった。

私がインターネットプロバイダーに入会手続をしたのは1995年の7月である。それまではイ ンターネットなど触れたことはなく、パソコン通信でさえ満足に使うことができなかった。 だいいちパソコンを使い始めたのは1995年の1月にPC98を購入してからで、インターネット 体験コーナーを社長の武澤俊夫から「やるぞ」と言われた時は「そんなむちゃくちゃいわな いでくれ」という気持ちであった。しかしコマツテックの山下氏のプッシュが最終的に利き、 結局やるはめになってしまったときには、「かくなる上はやってやろうじゃないの!」と開 き直った。

まず、インターネットのデモをやるのに必要なものを揃えなければならない。 以下が最終的に用意した主な器材の表である。

器材表
パソコンFM/V 2台 GATEWAY2000 1台山下氏 武澤
TA2台梅山氏 武澤
テレビ電話2台NTT
回線アナログ1回線 デジタル3回線NTT
レンタル
椅子武澤

テレビ電話は、どうせインターネット用にデジタル回線を引くのならテレビ電話のデモもや りたいとNTTさんが持ち込んだものである。

プロバイダーは丸紅familleさん、東京インターネットさん、回線はNTTさんの協力を受け 当初考えていたよりも恵まれた環境でデモができるようになった。本当に感謝感激である。

そして場所取りのくじ引きを無事に終え、デモ用のHOMEPAGEを急造し、ソフトをインストー ルし設定を終え(これが大変だった)デモの準備はなんとか前日の夜に整った。

2.「インターネット体験コーナー」の3日間

インターネット体験コーナーは3日間休む隙もないような盛況となった。 しかし、人々は呼び込みを行わないと積極的にはテント内に入ってこないことも事実であっ た。体験者に対する感想は私が作成したIKIS HOMEPAGEのTenkaichi reportも参照していた だきたい。

11月3日

初日、私は満員御礼まちがいなしと自信満々であった。しかし朝9:00開始の天下市は10:00 になっても隣のお団子は売れても私達の体験コーナーには人が入ってこようとしない。 というよりは避けられているようである。少しヤバイなと緊張した。山下さんが呼び込み を開始する。するとぱらぱらと人が入ってくる。WWWやインターネットの説明を始める。 わかったようなわからないような複雑な表情をしながら帰ってゆく。次の人が入ってくる、 また同じ様な反応をみせ帰ってゆく。そのうち混み始めたので説明のスピードをあげ、人 の回転を早めようとする。するとますます説明が雑になり、なかなか「うむすごいね」と いう反応を得ることができない。結局、良好な反応を得られたのは半数いたかどうかであ った。

11月4日

前日のせかせかした流れを変えようと、人の回転を意識せずその人が良い反応を見せるま で説明しようとじっくり構え、必要な人にはパソコンの電源を入れるところからデモを始 めることにした。そうすると不思議なもので昨日とは心の余裕がまったく違い、体験者の 反応もとても良くなった。またどうしても次の人を待たせるようになるのだが、待ってい る人がいるとかえってテントの中に入ってくる人も多くなるのは不思議である。人だかり に人は吸い寄せられるのだなと思った。おかげで休む隙はまったくなかった。

11月5日

3日目なので説明のツボもわかってきた。まったくパソコンを使ったことのない人でも目 の前で電源を入れるところからwwwを観るところまで作業を行うといろいろな疑問が出て くる。その疑問に対してゆっくり丁寧に、時には画をまじえて説明するとだんだん分かっ た気(これが大事)にすることができ「たしかに面白いな」と思わせることができた。こ の日も休む隙はまったくなかったが疲れは感じなかった。とにかく画面の美しさや情報を 簡単に取れるという話しよりも、パソコンと通信の仕組みや、ダイアルアップにおける電 話代などの話(海外までの電話代がかかってしまうと考えている人が結構多かった)をし たほうが喜ばれた。

3.「インターネット体験コーナー」で得たもの

私は今回の「インターネット体験コーナー」を催すことにより様々なものを得ることができ た。インターネットの知識、パソコンの知識、いわゆる素人へパソコンやインターネットの 説明をする自信とノウハウ、小規模なイベントを実行する自信とノウハウなどである。 また今回のサブテーマは勝手に成長する若者よりも中高年層にインターネットを体験しても らうことであったので中高年層を中心に呼び込みを行ったことにより、中高年層のインター ネットへの関心は高いと感じることができた。ただ、今更始める気にならないだけである。

最大の収穫は様々な人々に出会ったことであろう。インターネットを広めようとする人々に 出会い、私達の説明により関心を持って頂ける人々に出会うことができた。 この Kunitachi Town Guide はその結晶である。天下市を催すことによって作者の佐伯君と 出会い、丸紅familleの田口氏、山田氏の協力を頂き、こうして新たな形で出発することが 出来た。

4.インターネット革命

年のはじめには想像も出来ない展開で1995年が暮れてゆく。 私の身の上に起こったまさにインターネット革命は私だけの特別な出来事なのだろうか? けしてそうではないと思う。いまだインターネットに触れていない人々にもこの革命的なコ ミュニケーションツールは広がりを見せるはずである。 地元国立でそのお手伝いが出来れば幸いである。

最後に「インターネット体験コーナー」ご協力頂けた梅山氏、田口氏、山田氏、山下氏、NTT の方々、佐伯君に深く感謝し体験記を終わらせたいと思う。

(Dec. 1995)